デジタル教科書の見直しへ スウェーデン
2025年05月25日 16:59
スウェーデンでは、行政手続きや電子決済サービスをはじめとして社会のさまざまな場面でデジタル化が進んでいる。それらをさらに進め、イノベーションを促進してデジタル化の可能性を追求しようという国家戦略を描いている。学校のデジタル化はその中で重要な役割を担う。しかし一方で、近年、デジタル版ではなく印刷媒体の教科書を見直す動きが広がっている。
デジタル・コンピテンス
スウェーデンでは2011年の学習指導要領にデジタル・コンピテンスが明記された。学校が重視すべき教科横断的な重要事項の一つに位置付けられている。
学校は、子どもたちにデジタル・ツールを使う機会を与え、学習に役立たせることが期待された。また子どもたちは、デジタル化が人々の暮らしや社会に及ぼす影響を理解し、批判的・実用的に利用する態度を身に付けることが重視された。
デジタル・コンピテス育成と言いつつ、それは新しい教育内容や活動の導入にとどまらず、学校におけるデジタル環境の整備と、社会の変化を理解する批判的姿勢を重視するといった視野の広い取り組みが目指されていたと言える。
デジタル化の大幅な見直し
しかし22年秋、政権交代に伴って就任した新しい教育大臣は、近年の学校現場のデジタル化は無批判で行き過ぎだと批判し、「実験だった」にすぎないと総括して見直しを求めた。
批判の焦点は、紙の教科書の使用が少なく、スクリーンを見る時間が長過ぎる点だった。デジタル教材では、音や動画を使ってリアルな内容が理解しやすいといった利点があるものの、紙の本の方が見直しやすく、要点を思い出しやすく、内容をよく理解でき、読書の時間が長くなる傾向がある、といった研究結果が紹介された。その結果、アナログの教材費を支援する予算措置が取られた。
大臣による批判を皮切りに、デジタル化反対の論調は強まった。デジタル・デバイスでは説明を聞きながら他に注意が向きがちで、マルチタスクになり、集中力が低下するため学習を阻害するといった意見が出された。集中力を保てる子どもたちは影響を受けにくいものの、そうでない子どもたちの成績が落ちたという経験を持つ教師もいた。
デバイス使用に適した年齢は?
幼児期にデジタル・デバイスに慣れてしまうと、現実の大人との直接的な関わりが減り、言語発達、注意力、社会的スキルの発達が妨げられるといった批判もあった。低年齢の子どもたちでは、手で文字を書く練習が不足することで、運動能力、脳の活性化、言語発達などが低下することが懸念された。
年齢が上がっても、授業中のメモはキーボードで打つよりも手書きの方が思考を整理できるという主張もあった。2000人の教師を対象にしたアンケートでは、約95%の教師が、学校で手書きすることが必要だと考えていた。にもかかわらず、授業で子どもが実際に手書きを用いているのは3年生までで93%、4~6年生で82%、7~9年生で65%、高校生では43%にとどまり、キーボードの浸透が明らかにされた(パーセントは4件法で「いつも手書き」「たいてい手書き」の合計)。
デジタル化の是非が大きく議論になる中、23年から計画されていた新しい教育のデジタル化戦略は、パブリックコメントで脳科学者や小児科医を中心に強い反対があり、廃案になった。反対意見では、子どもの学習や成長に対するデジタル化の悪影響を示す研究結果が無視されていると警告され、特に幼児教育でのデジタル化が批判された。世界保健機関(WHO)の勧告では2歳未満の子どもにデジタル・デバイスは使用させず、2歳以上の未就学児も1日1時間未満に制限すべきとしているという。
社会全体のデジタル化が進む中で、幼い子どものデジタル使用への懸念に共感する人は多いだろう。学校におけるデジタル・デバイス使用のメリットとデメリットを冷静に見極めながら、日本でも、付き合い方を考えていく必要がある。